NaeBuka
理不尽なJO
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【オリジナル早読】かりん秘密のスカートの中【ver】

プロローグ わたし、藍斗かりんはこの二つの出会いを忘れることはないだろう── 「入りなさい、ミオ」  わたしの新しいお母さんになるというそのひとがそう言うと、ドアが開いてひとりの男のひとが部屋に入ってきた。 ミオなんて可愛らしい響きの名前に似つかわしくない、背の高い、立派な体格をしていた。短く刈られた髪はオレンジに染めらていて、切れ長の目は鋭く、口元はきゅっと結ばれていて、眉間にしわが寄っていた。 正直── ちょっと怖かった。それがわたしのおにぃ──もとい、兄貴に対する初対面の素直な感想である。 「彼がお前のお兄さんになるミオ君だ。これから、仲良くしてくれ」 「え? え? お兄さんになる……?」 わたしはまだ状況が飲み込めていなかった。今朝起きたら突然お父さんから再婚すると言われて、しかも新しい家族には年上の男のひとがいて、わたしの兄になるというのだ。そんなこと急に言われても頭が混乱するばかりだ。今日って4月1日だっけ? しかし、お父さんも七海さんも真剣そのもので、冗談を言っているようにはとても見えない。 まぁ、お父さんが突拍子も無いのはいまに始まったことではないのだが…… ミオと呼ばれた彼は、わたしを見下ろしている。その視線はなんだか強い意志が宿っているように思えた。 「よろしくお願いします……」 何を喋ればいいかなどわからず、とりあえず挨拶をする。すると彼もまた少し頭を下げた。 「よろしく頼む」 まさにぶっきらぼうといったトーン。ううむ、なんか空気が重い。 「ごめんねぇ、コイツこんなだけど、別に怖くないからぁ」 七海さんがそう言いながら、彼のほっぺの両側をむにいぃっと掴んだ。 「なにす……りゅ……」 座った目のまま変顔になる。わたしは思わず吹き出してしまった。さっきまであんなにも強そうな顔をしていた彼がまるで子どものように扱れているのを見て、つい可笑しくなって笑ってしまうのだ。 「ぷふ!あはは!」 笑い声を上げると、目の前の彼がこちらを見た。そしてまたすぐに目を逸らす。 「ね、言った通りだったでしょう? かりんちゃん、笑うととっても可愛いいのぉ。アンタだってそう思うでしょう?」 その言葉に彼の顔が赤くなった──気がした。 七海さんは彼の頬を掴んだまま、ぐいっとその顔を自分の方に向けさせた。 「ほーらぁ」 そして彼のあたまを上から押さえるようにして、 「ともかくふつつかな親子ですが、共々これからよろしくお願い致します」 と、深々と頭を下げたのであった。これがわたしと兄貴との出会いであり、忘れられることなど出来ない出会いのひとつだ。 そこからの暮らしは急展開であり、駆け足であっという間のものだった。 実はお父さんも七海さんも悪の組織と戦う正義の機関に所属しているとか、父娘二人で暮らすより一緒に暮らした方が安全だとか、七海さんの職業が母であることを捨てた女戦士だとか、そういう設定もりもりなことがどんどん判明していき、もちろんわたしはその全てをすぐには受け止めきれずにいた。けれど、ときたま町内で悪の組織の戦闘員的なものが現れるようになって、わたしは否応なし現実を突きつけられた。そして、ふたつめの出会いがやがて訪れる。 「えぇ!? これからはおにぃと二人で暮らせって?」  その日、お父さんと七海さ──お母さんに、唐突にそうするよう言われた。ふたりの話によると、最近悪の組織との戦いが激化したことで、家に戻れることが少なくなりそうだということらしい。手元に置けないというリスクがあるものの、やはりこの家の方が安全なのだという判断のようだ。 「それに、深勇は私が稽古つけ続けたからねぇ。そこらへんのザコ戦闘員じゃ相手にならないわよ」  わたしは横目でおにぃを見た。相変わらず無愛想だが、いざとなればこのひとは全力でわたしを守るであろうことをわたしはよく知っている。 「あと、二人でとは言ってないぞっ。ほら、お前たちの面倒見てくれるメイドロボットを連れてきた からなっ」 (メイドロボッ!?)  荒唐無稽な展開は馴れたと思っていたが、それでもその単語には驚かされた。まさか、本当にそんなものが実在するなんて…… 確かにお父さんの組織内での役割は発明家と聞いていたが──  果たして、部屋に入ってきたのは膝の高さにも満たない、もふっとした丸みを帯びたフォルムで…… 「いや、たぬきのぬいぐるみじゃん。可愛いけど」  わたしは率直な感想を口にする。そのたぬきは、わたしの言葉に反応してほとんど稼働しなさそうな首を捻ってこちらを向いた。 「なんや、失礼な小娘やな!」  なんで関西弁なんだ。見た目は可愛いのに、口を開くと途端に残念臭が漂う。ぽてぽてとこちらに近寄りながら、文句を並べてきた。方言のおかげで弱冠の迫力があったが、おにぃはそのたぬきをひょいとつまみ上げる。 「なんや!?離せ! ワイは由緒正しきタヌキ型戦闘用ロボット『ペコた』なんやで!!」  腕を振り回すが短すぎて全く届いていない。正直、可愛い。いやしかし、戦闘用ロボット……? 「いやねぇ、本当は悪の組織との戦闘用としてなかなか活躍していたんだけど、ちょっと”呪い”を受けちゃって、戦線から退いたのよね」  七海さんが説明を補足する。  なんだそりゃ。そもそもロボットに呪いってかかるのか。 「まぁ、そういうわけだから仲良くしてあげなさいねぇ?」 「いや、どういうわけですか……それに、呪いってなんかヤバそうなんですが……」  わたしはそう言いながらペコたを睨むように見てしまう。 「まぁ、うん……」  お父さんがバツが悪そうに鼻頭を掻くいた。これは言いにくいことを口ごもっているときの癖だ。ペコたはおにぃにつままれたままバタバタと暴れている。呪いなんて、一体どんなとんでもない事情があるっていうんだろう? わたしが不安げに眉を寄せると、お父さんはそのまま少し困ったような笑顔を浮かべてしまう。 そして── ドンッ!! 突然、わたしに衝撃が走った。重心が後ろに誘われる。 一瞬何が起きたかわからなかった。視界がぐるりと半回転して、気がついたときには天井を見上げていた。そして、お尻に痛みを感じて自分が床に倒れ込んだことに気づく。 「いたたたた……」 同時に下腹部にじんわりとした重みを感じた。もふもふな毛の感触。 視線を向けると、そこにはペコたがいた。どうやらおにぃの手の中で暴れた末に、勢い余ってわたしの上に落下してきたらしい。 (……っ!?) そこでわたしはようやっと肝心な状況に感づいた。今日の自分はいつもどおりスカート姿であるということ、両脚は不可抗力的にぱっかりと開ききっていること…… つまりは、下着が丸見え状態になっているということだ。そして──その事実に気づいた瞬間、自分の顔が熱くなるのがわかった。わたしの顔が赤く染まると同時に、ペコたが声をあげる。 「なんや! なにが起きてるんや!? まっくらで何も見えないわ!」 「ひとの股の間で騒ぐな!」  思わず怒鳴ってしまう。そのままペコたをつまんで放り投げようかと思ったが、このぬいぐるみもどきが今のわたしのスカートの中身をいくらか隠しているということも事実なので、踏みとどまる。とにかく、とスカートを慌てて正す。理由などなかったが、バツが悪そうにおにぃの顔を覗き込むと、おにぃはすでに顔を逸らしていた。チラっと覗く鼻頭が少し赤くなっていた気がするけど、その訳など当時のわたしにはわかるはずもなかった。 お父さんとお母さんは、わたしたちが落ち着いた頃合いを見て話を再開した。 「それで……あの……こいつが受けたのは、ラッキースケベの呪いなんだ」  お父さんが口火を切る。 「ラッキースケベ!?」  わたしとおにぃは素っ頓狂な声で復唱してしまう。おにぃのこんな声珍しい な……なんて思いながらも、わたしも内心ではかなり驚いていた。このペコたは、元々は悪の組織と戦う正義のサポートロボだったのだという。だが、ある日の戦場で、敵の攻撃を受けて呪いをうけてしまった。それが、ラッキースケベの呪いなのだそうだ。ラッキースケベとは、読んで字のごとく、偶然にも異性の裸体や下着姿を見てしまうというもので、主に少年マンガなどでよく見られるシチュエーションだった。 そんなものが現実……? と思ってしまいそうだが、実際に先程起きたことを考えると信じるしかない。組織には女性員も数多く在籍しているし、男性員の指揮にも関わるような呪いだから戦線を離れざるを得なくなったとのことだった。 「だからって、うちのメイドロボとしてって……あの、わたしもフツーに女の子なんですけど……」 さすがにさっきみたいなことが度々起こるのは勘弁願いたく、わたしは抗議の声を漏らした。が、七海さんが口を挟む。 「ほら、そこは、コイツが居るから」 と、おにぃの肩をポンと叩く。おにぃは戸惑いの様子を隠せず、わたしに目を向け、そしてペコたを見て、困ったような表情を浮かべた。 「それにもちろん、呪いをとくカギは研究してる最中だから!」 お父さんがさらに言葉を付け加えフォローする。 なんともいえない空気が流れ始めたところで、七海さんがパンッ! と手を叩いた。 「はいっ、というわけでこれから二人とロボ一匹で仲良く暮らしていってね~。たまには顔見せに帰ってくるからね!!」 明るく言い放つ七海さんの笑顔は、なぜかわたしに一抹の不安を覚えさせた。ともかく──  これがわたしの忘れられない二つ目の出会い、ペコたとの邂逅であった。 ~1話~ その日、わたしはスーパーでの買い物帰りにだった。料理をすること自体は嫌いじゃなく、むしろ好きな方だと思う。最近仕事が忙しそうなおにぃの疲れを癒せるようにと、精一杯、体力がつくものを作るつもりでいた。おかげで買い出した材料も結構な量になってしまった。両手にぶら下げたふたつのエコバッグを持ち直し、わたしは夕暮れ時の道を歩いていく。 少し風が強くなるのを感じる。残暑のため、心地よさが肌をくすぐる。爽やかさを堪能するも束の間、今の自分の状況──とりわけ、ミニスカート姿だということ──を思い出して、太腿を撫で付ける風に危機感を覚える。 スカートの裾を押さえようにも両手には荷物が握られている。それではスカートが捲れてしまうのを防ぐことなどできないだろう。 だ、だいじょうぶだよね……風なんて早々こんなタイミングで吹かないはず……。そう自分に言い聞かせるも、どうにも落ち着かない。そして、神様はわたしの味方をしてはくれなかったようだ。 ビュオォーー!! 突然、突風がわたしを襲った。正面から、まるで押し倒して尻もちをつかせようとせんばかりの勢い。わたしは慌てて足を踏ん張らせ、飛ばされないように身体を支える。スカートが股間に張り付くぐらいに風圧を感じる。 う、うそ……!? そんな……ッ!! 前面がそんな状況ということは、後ろ側なんて完全に丸見え状態になってしまっているに違いない。わたしは顔が熱くなっていくのを感じた。 恥ずかしさといたたまれなさと悔しさをぐっとこらえ、不自由な両手をなんとか操ってスカートを抑えようとする。が、やはり素早い動きにはならない。風が収まるまで、もしくは後ろに手を持っていけるまで……数瞬だが、スカートのはためきが耳に残るほど長く感じられた。わたしは慌てて後ろを振り向いたが、果たしてその視線の先には数人の男子学生の姿があった。彼らは一様に、わたしのお尻を見つめていた──ように思えた。 わたしはすぐに前を向き直す。冷静さを装うように、努めてゆっくりと歩き出す。 今……見られちゃったんだ……わたしの…… パンツ。 心の中では動揺を隠しきれない。今日履いてるの水色で、子供っぽいかもしれないけど、白色のリボンやレースがふんだんにあしらわれたお気に入りと言える…… いやいや……っ! 私は頭を振った。そんな色や柄なんて、今は関係ないっ! だけど、最近の体の成長のせいで、お尻の形が丸わかりになってただろうとか、そういえばひとりがスマホをかざしてたような気がするとか、悶々とした思考ばかりが巡ってしまう。振り切るように歩幅を大きくし、いち早く帰路につこうとする。 しかし、わたしはそこで再びアクシデントに見舞われることになる。とてもシンプルで、それでいて最悪な展開だった。──風。さっきよりも強い風が、今度は背中を押すように後方から襲ってきたのだ。 目の前には、ちょうどこちらに向かって歩いてくるた男子学生達の姿がある。先程からなんで、と思うが、部活帰りの時間帯と通学路になっているこの道を選んだのはかく言うわたしなのだから仕方がない。そんな後悔の念から一秒も経たぬうちに、スカートの裾が舞い上がる。や、やだぁ……!! と声を上げる間もなく、わたしは背後からの風にあおられ若干前のめりになりながら、無力に捲れあがるスカートを目で追うことしかできなかった。 ああああっ!!!! だめぇッ!! と思わず叫びそうになる。声をあげようが、あげまいが、男子学生の視線はわたしの股間に注がれるのだろう。視界の端に映った彼らの表情から、それが伝わってくる。ああんっ、なんで年下のスカート中を見てそんなに鼻の下伸ばしてるのよ! ともかく、スカートの前面が完全にまくれて────乙女のデルタ地帯、いやもはや痴態か……が、彼らの目にあらわになったのだろう。大きめの白色リボンも、ちょっと色濃くデザインされたクロッチの部分も、きっと彼らにしっかり認識されてしまったに違いない。 瞬間的に、わたしの顔は真っ赤に染まってしまった。 いやああああッ!!! わたしは泣きそうな気分になる。羞恥心からなのか、情けなさからなのかはわからない。他人に下着を見られるということがこんなにも恥ずかしいことだなんて、今更ながら思い知らされる。減るもんじゃない、そんな文句を使う人がいるけれど、減るものは減っちゃうんですよ!! 乙女心とか、そういうものが……ッ!!! そもそも、はばからずにガン見してくる異性の存在が羞恥を煽るのだ。そう言えば、クラスの男子達もスカートめくりや、階段での覗き行為なんかをして女子を困らせていた。なんで、男というのはそんなにパンツという名の布に執着する生き物なのだろうか? 興奮度合いが推し量れる鼻息を荒らげる彼らを見ると、わたしの乙女ゲージがゴリゴリと削られていくのを感じる。 もう、やだぁ……っ! わたしは顔をうつむかせて、なるべく彼らの顔を見ないようにして歩いた。そして、今にも泣いてしまいそうになる気持ちを抑えて、必死に耐え忍ぶ。両手でスカートの前後を押さえ──とても歩きにくかったが、そうするしかない── 内股気味に足を運んでいく。 とにかく、早く家に帰りたい。ズボンに履き替えたい。それだけを考え、わたしは足早に自宅を目指すことにしたのだった。そして、次の曲がり角を曲がれば家が見えてくる、というところまできた時── ビュオォーー! わたしは再び突風に襲われた。 その強風にあおられるようにして、わたしの身体は軽々と宙に浮いて…… って。うそ!? 浮く!? わたしは何が起きてるかもわからず、ただ悲鳴のような声を上げただけだった。 「な、なんで!?」 両足が地面から離れ、わたしの身体は、ふわりと浮き上がっていた。まるで腰を抱えれるような格好で、空を漂っている。 ちょっ! えっ、何これ……っ! どうなってるのっ!? 頭の中に疑問符を浮かべながらも、スカートがまくれ上がるのだけは防ごうと両手で押さえつける。もはやエコバッグは放棄するしかない。しかしあちらを立てればこちらが立たず。風圧が強烈過ぎて片手ずつでは、うまくスカートを抑えることができない。そもそも風に運ばれるようにくるくると体が回っているため、角度に寄っては足の付け根まで見えてしまうような危うさがあるのだ。 あ~んっ、ど、どこに行くのぉ~!? 風に押され、空中で流されるままになっていたわたしは、更なる事態に直面することになる。 わたしの眼下には、先程までわたしのパンツをガン見していた男子学生達の姿があった。彼らは皆一様にこちらを見ている。口を半開きにしてぽかんと呆けたように……いや、違う! すぐさま目つきをいやらしいものに変え、口元を歪ませながら、何かを呟いているようだ。……み、見えた……ッ!! 俺も見たぞッ!! さっきのJSのパンツだ……ッ!! 水色ッ!! 白ッ!! リボン付きッ!! とでも言っているのだろうか? あまりの恥ずかしさに、涙が出そうになる。 ああんっ、やだぁ!! み、見るなぁッ!! しかし、そんなわたしの願いも虚しく、男子学生達は一斉にスマホを取り出した。パシャリ、パシャリという音が響き渡る。 こ、この人たち、まさか盗撮して……! わたしのお尻があっちに向けばあっちから、こっちに向けばこっちから、次々にシャッターが切られていく。わたしのパンツが記録媒体として保存されていくのだ。や、やーん! お、お願いだからやめてぇぇぇぇぇぇ!!!!! わたしの心からの叫びも届かず、男子学生達の歓喜の声がこだました。 「美少女JSの水色パンツ! まさに天からの恵み!!」 「いい眺めだぜ。こんなことなら、もっと早くカメラ取り出せばよかった!」 「俺なんて動画で録っちゃったよ」 いやああッ!! なんでそんなに嬉しそうなのよぅ!! なんなのよ、もう!! 恥ずかしさと悔しさがごちゃ混ぜになって、わたしの胸の中で渦巻いていった。それを嘲笑うかのように不思議な力がわたしを空中でぐるんと前回りのように一回転させてから、ようやく風は止んだ。 地面に降りたわたしは、慌ててしゃがみ込み、両手でスカートを押さえつけた。顔から火が吹き出るほどに熱い。きっと耳まで真っ赤になっているに違いない。 な、なんで……っ! わたし、空に浮かんでた。スカートめくれて……パンツ見られて……。撮られて……ッ。 泣き出しそうになる。あまりにもショックでしばらく動くことができなそうだ。そもそもひとの下着の映像なんて残して、いったいなにに使うつもりだというのか? それは深く考えてはいけない領域だ。しかし、考えただけで顔が熱くなる。 それにしても、どうしてこんな目に遭わないといけないのだろう。わたしが何をしたっていうの……っ。 両手でスカートを押さえたまま、わたしはポコタの顔を思い浮かべていた。アイツが受けてるっていうラッキースケベの呪い……それが、わたしにも影響しているのだろうか。 わたしは目尻に涙を溜めながらもら眉を吊り上げ、ポコタへどんな恨み節をぶつけてやろうかと考えていた。頬をつねってでもやろうか。こんな風に……ぎゅーって……あれ? 妙にリアルな感触が右手に伝わる。 「……痛いやないか」 実物だった。いやはや、予想外の展開だ。わたしはなおもグリグリとその柔らかボディを責め立てる。 「は、離せ! お前、なにしとんねん! はーなーせっ!」 短い手足を必死に動かして、ポコタは抵抗してきた。届くはずも無いのに、手をぶんぶんと振り回しながら怒っている様はちょっとかわいい。 「いや、アンタこそなにしてんのよ。ていうか、いつからそこにいたの?」 「おんっ? そんなん最初っからに決まっとるやんけ。この天狗のうちわのテストやろ」 わたしは目を丸くする。さいしょ……? てんぐのうち、わ……? 意味を手繰り寄せてみる。天狗のうちわって風を起こすって言われてる……って、か、風?!も、もしかして一連の出来事は……全部コイツの仕業……っ!? わたしはキッと睨みつけると、ポコタはその小さな鼻の穴をヒクつかせた。得意げにふんっと息を吐きながら、そっぽを向いてみせる。 「あ、アンタ……ひとがどんだけ恥ずかしい思いをしたと……!」 怒り心頭のわたしに対して、ポコタは反抗的な態度を見せた。 「小娘の履いた布地が見えたくらいで誰が喜ぶもんかい。自意識過剰や、自意識過剰!」 そんな風に言われても、嬉々としてそれを覗き込み、あろうことかスマホで撮影、録画してくる輩が居たのは事実なのだ。ていうか思い出してまた羞恥心が湧いて出た。わたしが顔を赤く染めている間にも、ポコタは尚も続ける。 「まあでも……パンツ見られて恥ずかしくて泣くなんて、ほんまに子供やなぁ~。ぷっぷくぷー! 」 何それ! わたし、な、泣いてなんかないもん! 泣きそうにはなってたけど……! まったく収まりそうにない感情をわたしはなんとか飲み込む。そして、大きく深呼吸して反論をしようとした、そのとき── 取り上げられるようにポコタの体が、ひょいっと宙に浮き上がった。 「お、おにぃ……」 そこには仕事帰りのおにぃの姿があった。いつも通りの眠たそうな眼差しのまま、ポコタの首根っこを掴み上げていたのだ。 ポコタはジタバタともがきながら叫ぶ。 「お、おかえりなさい……」 わたしはバツが悪そうに挨拶を呟く。だけど、なんで?! 別にわたしは悪いことなんてしていない。ただ、ポコタのせいでパ、パ、パ……パンツを、おにぃじゃない男のひとにたくさんに見られただけ……だけ!? だけと吐き捨てるには恥ずかし過ぎる事態だが、それにしても申し訳なさを感じてしまうのは何故だろう。 「ほら、帰るぞ。夕飯、楽しみにしてるからな」 だけどおにぃは、ぶっきらぼうに、だけど温かい声色でわたしに語りかけてくれる。当たり前のようにエコバッグをふたつ、軽々と片手で持ちながら。もう、ほんと……わたしのおにぃを見つめる視線は自然と熱を帯びていく。見つけちゃいけない、隠さなきゃいけない感情なのに、大事な大事なそれは、わたしは小さく口にすることで、願いのような、魔法のような……そんな、形にしようとする……と思った、矢先── ブワアァァァッ!! 突然、突風がわたしを襲った。思わず目を瞑ってしまうほどの強風。当然のようにスカートは捲れ上がり、その奥にある水色の布地は露わになる。もはや、何度目の風チラなのか、数えたくもないほどなのでもう装飾やらの描写は割愛したいところだ。とにかく…… 「きゃ、きやぁっ?!」 わたしは咄嵯に両手でスカートを押さえつけた。しかし、視力良好、動体視力も抜群のおにぃは、もちろん見逃すはずもなく……。表情を赤く染めていた。すぐに顔を背け、 「わ、悪い……」 と、謝ってくる。 「いまのはワイ、関係ないで」 続けて、ポンタ。いや、それはわかってるけど。ともかく── おにぃにパンツ見られた! わたしの顔もおにぃに負けず茹でだこのようになる。おにぃは気まずそうに咳払いをした。まぁ、兄妹なんだから、下着を見られたと言っても本当なら大したことではないのかもしれない。でも、実際は血は繋がってない。恥ずかしいものは、恥ずかしい。だけど、それ以上に……不思議な感じでドキドキしてしまっている自分がいる。なんだろう、これ。 そんなわたしとおにぃの間に流れる微妙な空気を察したのか、ポコタが軽口を挟んできた。 「なんや二人して。今度ワイがもっと色っぽいパンツ買ってやるから、発情すんのはそれからにしてくれや。ほら、早くうち入ってメシにしよーや」 いらん! いらないよ! そ、それに発情って……ッ!! 「こ、こんのっ、セクハラタヌキ!!」 わたしは恥ずかしさを誤魔化すように怒鳴った。我が家は駆け込もうとするポコタを追いかけ回す。おにぃがその様子を見て、珍しく口角が上がったように見えた。なおも風は吹いている。どうにも、恨めしい感情が、わたしの中に生まれる。風なんて、風の日なんて……嫌い、だぁ~~ッ!!


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