ゴウライジャーに完全敗北した鷹介達は、気を失ったまま病室へと担ぎ込まれた。そして動き出したユメバクー師の攻撃を退けた吼太のおかげで、石になっていく子供達と七海は目を覚ますことができたのである。だが、鷹介ただ一人が目を覚まさず、原因が特定できぬまま一日が過ぎた。
夢の世界にどっぷりとはまりこんでしまった鷹介を救い出すべく様々な手を尽くしたが意識が戻ることはなく、吼太達はただ見守る事しかできずにいたのである。
ユメバクー師は子供達を苦しみや悲しみのない甘い世界へ引きずり込んだ。だがユメバクー師は自分が滅する瞬間、鷹介を終わらない苦しみの世界へと引きずり込んでいたのである。
夢の中で鷹介はハリケンレッドとしてただ一人戦いに明け暮れていた。誰の助けもなくひたすら襲いくるマゲラッパ達を何百体も倒し続け、必死に夢の出口を探していた。彼のスーツはあちこちが黒く焦げて、煙がくすぶっている。腕を包む鎖帷子はところどころが裂けて素肌が露出し、血が滲んでいた。戦い続けていればいずれ助けがやってくる。レッドはそう信じてハヤテ丸をふるい続けていたのだ。
レッドはふらふらと頼りない足取りでマゲラッパを斬り捨ててゆっくりと前に進む。腕の感覚はとうの昔になくなって、ハヤテ丸を握るのが精いっぱいであった。条件反射で手が動く、そんな状態だったのである。丸一日刀を振るい続けるのは尋常ならぬ精神力がいる。折れない心を見せつけるかのように戦い続けていた。
「鷹介!」
突然、レッドの耳に自分の名を呼ぶ吼太の声が響く。続けておぼろの、
「こっちやで!」
という声。やっと悪夢が終わる。やっと解放される。レッドの胸に安堵感が一気に広がり、群がるマゲラッパを突き崩し声のする方向へと走り出した。彼の視界の中に広がる光の輪。その中に吼太とおぼろの姿が見える。もう少し、もう少し走れば……。全力で暗闇の中を駆け抜けるレッドは自分を主張するように大きく手を振った。吼太が大きく手招きをしながら、
「もう少しだ!」
と叫ぶ。
「もうちょっとやで! 走るんや!」
おぼろの声にレッドは大き頷きながら走った。レッドの足が暗闇と光の境目に入った直後、突然地面が抜けてしまったのである。
「うわ!?」
レッドの足が地面を踏み抜き、そして彼の前後から大量の針が仕掛けられた板が素早く起き上がってきたのである。
「ぐあああああああああ!」
針の板がレッドの胴体を前後から挟み込んだ。スーツが激しく爆発して火花をまき散らす。針は深々とスーツに突き刺さり、レッドが苦悶の声を上げて身悶えた。それを見ていた吼太達はがっくりと肩を落とし、
「なんで引っかかっちゃうんだよ」
と口々に文句を言いだした。そしておぼろはため息とともに、
「おしおきやな」
と言って印を組んだ。するとレッドの頭上から古めかしい焙烙火矢(ほうろくびや)が何十個と降り注いだ。陶器の器に火薬を詰めて球体にし、縄で十字に縛り付けて導火線を通した手榴弾のようなものである。針の板に挟まれて身動きができないレッドのまわりに焙烙火矢がぼとぼとと落ちてくる。そして導火線に一斉に火がついて、音を立てて燃え盛り始めた。レッドは叫びながら逃げだそうともがくものの、針がよけいに食い込んで体がさらに沈み込む。そうこうしているうちにあちこちで爆発が起きて土が舞った。
「う、あ、助け……」
ドン、ドン、ドン! と爆弾の破裂音が鳴り響きレッドの声をかき消してしまう。そしてレッドの落ちた穴に転がっていった焙烙火矢がとうとう爆発してしまい、
「うわああああああああ!」
爆炎が立ち上ってレッドの姿が見えなくなった。おぼろ達が指をさしてゲラゲラ笑い転げる。炎が収まり煙が晴れると、さっきまではまっていた落とし穴がクレーターのようにぽっかりと口をあけて、その中央で転がっているレッドの姿があらわになる。
マスクが半分吹き飛び、鎖帷子はびりびりに破れて、針が刺さったところは丸く穴が開いて回路が露出し、引き裂かれたコードがバチバチと火花を散らしていた。爆発の衝撃でレッドのスーツは完全に破壊されてしまい、
「あっ…うあ……」
ぴくぴくと体を震わせながら小声で呻いていた。
「情けないやっちゃなぁ」
おぼろがため息をついて手を払う。するとおぼろ達は姿を消し、レッドを包み込んでいた暗闇が、雑木林へと姿を変えた。
「何!?」
レッドが飛び起きる。それまでの激痛が嘘のように消え、めちゃくちゃになっていたスーツも元に戻っていた。
「ちくしょう、なんなんだよ!」
レッドがハヤテ丸を抜こうと背中に手を回す。だが、そこにあるはずのハヤテ丸がなかったのだ。
「な、なんで……」
うろたえるレッドの背後から枝を踏む音が聞こえて振り返る。ゴウライジャーの二人が現れたのである。そして二人の武器を組み合わせて二重連ダブルガジェットを組み上げると、それをレッドに向けて構えた。
「ま、待て!」
「サンダー!」
ゴウライジャーの掛け声とともに高電圧のエネルギーが発射された。
「ぐああああああああーッ! うがああああーッ!」
不意を突かれたレッドの全身を高エネルギーが包み込み、彼のスーツが大爆発を起こす。胸のエンブレムが餅のように膨れ上がり、爆発音とともにはじけ、砕けた回路基板や配線が外へえぐれて飛び出した。それを皮切りにレッドのスーツは絶叫と共にあちこちが膨らみ、爆発で弾けていった。二人の攻撃が止むとレッドはボロボロに破壊されたスーツをまとったまま、煙とともに地面に倒れ伏せた。
ゴウライジャーの姿が霧のように四散したかと思うと、今度はハリケンイエローが現れる。手には何故か三重連トリプルガジェットを握っていた。
「ぐあああ……!」
激痛にもだえ苦しむレッドに向けて、イエローが放つ。
「ブレイクダウン!」
ガジェットから発射された超重量のエネルギー体がレッドの顔面をとらえて彼の体を吹き飛ばす。
「うあああああーッ!」
レッドの体が大木に打ち付けられて、背中から火花が舞い散った。レッドとエネルギー体の衝突で大木が真っ二つに割れ、レッドの体が深々とめり込んだ。イエローが消えたかと思うとレッドの目の前に現れて、クエイクハンマーを振り回し力をためる。
「あ、あ…、やめ……!」
「食らえ!」
クエイクハンマーがレッドの腹めがけて勢いよく振られる。
「がはあッ!」
腹を押し潰されたレッドはマスクの中に吐血した。ぶくぶくと泡のように血を噴いて、マスクからあふれ出した血がレッドの首元を真っ赤に染め上げた。大木が完全に割れてレッドの体が地面に落ちる。震える手をイエローに伸ばしかすれた声で、
「助けて……」
と訴えた。だがイエローは無慈悲にクエイクハンマーをレッドの頭に振り下ろした。マスクごと頭がひしゃげて潰れる音が、レッドの耳の中に響いた。
レッドが次に目を覚ました時、彼は岩場に立っていた。敵と対峙するかのように仁王立ちの姿のままぴくりとも体を動かせないでいる。
「くそ、なんなんだよ! なんで夢が終わらないんだ!」
仁王立ちのまま固まってしまい動けないレッドの目の前に突然ドスンと岩が落ちてきた。そしてその岩がぱっくりと割れ、中からハリケンジャーとは違うレッドヒーローが姿を現し、ゆっくりと立ち上がった。手裏剣のような十字をかたどったマスクのバイザー。手裏剣のデザインがあしらわれた襷のようなものを左肩からさげたようなスーツ。レッドには敵か味方かわからなかった。
「いくぜ! あっぱれの矢!」
突然現れたレッドヒーロー、アカニンジャーが構え矢を放った。その矢は肉を裂く音を立て、レッドの腹に深く突き刺さったのである。
「ぐああああああ!」
「オラ! オラ! オリャー!」
矢が次々と放たれ、レッドの胸や太ももに突き刺さる。そして最後の一本があろうことか、
「あぎゃああああああ! うぎゃああああああああーッ!」
レッドの股間に突き刺さったのだ。仁王立ちの姿のままで胸と腹、太ももと股間に矢を突き刺されたレッドは、喉が潰れそうなほどの大声で悲鳴を上げる。スーツの中で半分勃起してしまったペニスに、ダメ押しのように矢が突き刺さり、
「うがああああああああーッ!」
レッドは獣のように叫び狂った。体が石のように固まって動けないレッドは矢を抜くこともできないまま、ひたすら苦痛に声を上げることしかできない。そこへ真っ赤な影が遠くからあちこちの岩を飛び移って近づいてきた。そしてアカニンジャーの隣にすっと降り立ったのである。
「ぐあああああ……」
痛みに呻くレッドの前に立った二人目の戦士、ニンジャレッドはカクレマルを抜き、
「隠流満月十文字斬り!」
と威勢よく叫んで刀を振るった。ハリケンレッドの体が十字に切り裂かれて、
「うああああああーッ!」
彼の悲鳴とともにスーツが大爆発を起こす。ニンジャレッドとアカニンジャーが刀を構え、仁王立ちのまま動けないハリケンレッドに襲いかかった。
「ぐあ! うああ! がふっ! ごあああ! うがああ! ぐあっがああああ!」
二人は刀で容赦なくレッドを斬りつけた。レッドのスーツが引き裂かれて回路があらわになると、二人はそれを刀で抉り取る。やがてハリケンレッドの上半身を守るスーツは跡形もないほどぐちゃぐちゃに破壊され、引き裂かれた深紅の布きれが風に揺れ、ひび割れた基盤がむき出しになっていた。二人はレッドの体に突き刺さった矢を引き抜き、かわりと言わんばかりに刀を突き刺す。
「ぐほ…、うあああ……」
二人の刀が滑るようにレッドの体を切り裂いて、二人はカチンと刀を鞘に戻した。レッドの全身から火花と煙が噴きあがり、
「ぐわああああああーッ!」
レッドの体が絶叫とともに崩れ落ちた。
「うあ…、あっ…あ…」
ニンジャレッドがハリケンレッドの脇腹を蹴って仰向けに寝かせる。二人の目に飛び込んできたのは、スーツの中でパンパンに膨らんだペニスが脈打つ様子だった。
「も…、やめ…、助け……、し…ぬ……」
ハリケンレッドが意識を失ってがっくりと頭を横たえた瞬間、股間に白濁した水玉がぷっくりと浮き上がり、ペニスの形を浮き上がらせるように精液がじわじわと広がっていった。
次にレッドが目を開けると、また暗闇の世界にいた。まだ終わらないのか。レッドががっくりとその場に膝をつく。奥からマゲラッパの群れが走ってきても、レッドは立ち上がろうとしなかった。マゲラッパに顔面を蹴り飛ばされて吹っ飛んだレッドは、大の字のまま暗闇の空を仰いで横たわったままである。そしてその空にチュウズーボの顔が浮かび上がった。
「もはや戦う気力すら無くしたか」
チュウズーボの問いかけにもレッドは答えなかった。
「せめて貴様だけでも道連れにしてやろうと思っていたようだが、ここまで効果があるとはな」
チュウズーボが口をあけ、レッドに向けて涎を垂らす。その涎が腹に落ちるともうもうと煙が立ち上った。
「ぐあああ!」
スーツの表面がどろどろに溶けて、中の回路がぐにゃりと歪んでいく。涎がぽたぽたと落ちてきて、レッドのまわりの地面にも穴をあけていった。
「ぐあ!?」
涎が鎖帷子にあたるとそれが溶けて、レッドの焼けただれた素肌があらわになる。腕を押さえて転がるレッドの背中に涎が当たると、
「うあああああああ!」
体を弓のように反らせてまた転がった。涎をよけて立ち上がると、マゲラッパ達が武器を手にレッドに群がる。無数の刀が突きだされ、レッドの肉体を切り刻んだ。
「ぐあっ! うああああっ! がっぐああっ!」
そしてマゲラッパの刀がレッドの腹をとらえ、ブスリと刃がレッドを貫いた。
「ぐああああああああーッ!」
貫かれた箇所が大爆発を起こして、暗闇の中で瞬く。マゲラッパの刀が次々とレッドを貫いていく。太ももを刺され、右足の甲を貫かれ、脇腹を突き刺された。レッドはその痛々しい姿のまま仰向けに倒れこむ。痛みに震えて動けなくなってしまったレッドにマゲラッパ達が群がり、暗闇の中に閃光が瞬き、レッドの苦痛の声がこだまする。
しばらくしてチュウズーボが号令をかけるとマゲラッパ達はレッドから離れた。スーツは縦に引き裂かれ、あざだらけのレッドの体が露出していた。マスクは叩き壊されて玉のような汗と血を浮かべる鷹介の顔がさらされていた。だらしなく投げ出された両手はあらぬ方向へねじ曲がり、もはや戦うことなどできないと一目でわかるほどに痛めつけられていた。レッドのへそには白濁した体液がたまり、胸には幾重にも切り傷がついている。
「う…ぐぅ…、うあぁぁ……」
「さて、そろそろこの悪夢を終わらせてやろう。もうお前は二度と立ち上がれん」
マゲラッパが刀を振り上げ、レッドの胸に深々と突き刺した。
「ぐぶぅッ! がはあぁッ! …が……や…、し…ぬ……」
レッドの体がガタガタと激しく震えてペニスが精液をまき散らす。マゲラッパが刀を抜くとレッドは体を弓のように反らせてチュウズーボに向けて手を伸ばした。そして何かをつかむようなしぐさを見せた後手が地面にばたりと落ちる。レッドの視界がぐにゃぐにゃと歪み始め、やがて意識を失った。
「鷹介!?」
目を覚ました鷹介の目に、涙を浮かべた吼太が映った。病室のベッドの上で目を覚ました鷹介は、現実なのか夢の続きなのか疑うように、布団から手を伸ばして吼太の頬を撫でた。暖かい頬の感触と、涙の感触が指先に伝わる。
「よかった、目が覚めたんだな!」
吼太が撫でようとした手を払いのけ、鷹介はベッドから飛び出した。壁にぴったりと背中をつけて逃げるように部屋の隅へと後ずさる。
「鷹介?」
これも夢だ。きっとまだ夢が続いてる。鷹介は膝を抱えて目を逸らした。
「今はそっとしといた方がよさそうやなぁ」
「でも!」
「ええから。そっとしとき」
おぼろは吼太の腕を引っ張って病室を出て行く。一人残された鷹介は病室の隅で膝を抱えたまま静かに震え続けた。
夢と現実の境目を認識できなくなってしまった鷹介は、回復するまでにかなりの日数を要した。そしてやっとの思いで復活する頃、ジャカンジャはハリケンジャーだけでは太刀打ちできないほど勢力を拡大していた。
終わりのこない悪夢よりも悲惨な戦いを強いられた彼らの末路は、とても辛く、みじめなものであった。
(了)