ブルーマスク・アキラはいつものようにパトロールに出ていた。梅雨空で雨こそ降っていないものの、鉛色の空が明るく元気なアキラの気持ちを沈ませる。 ポケットからリンゴを取り出して一口齧り、公園へと入っていく。噴水の見えるベンチに腰掛けのんびりと好物のリンゴを頬張る。地帝獣の活動も最近は大人しくなり、穏やかな日々が続いていた。 ベンチでリンゴを齧るアキラの足元にある排水溝から、水色に輝く液体がじわりじわりと染み出して、ベンチの裏手、芝生の方へと動いていった。 「ん?」 妙な気配を感じたアキラはそっとリンゴをポケットに戻し、すっくと立ちあがると後ろを振り返った。 「うわ、なんだこれ!?」 先ほどの水色の液体がまるで水たまりのように背後に広がっていたのである。空を見上げるが相変わらずの鉛色の空。だが雨は降っていないし、散水栓も見れば離れたところにある。 「こいつは、地帝獣…? ではなさそうだけど……」 水たまりに顔を近づけた時、突然その水たまりが浮き上がりアキラの顔をすっぽりと覆ってしまった。 「がはっ!」 お、溺れる!? アキラは体をよじり両手で必死に引きはがそうともがいた。だが、その液体はアキラの顔はおろか体の方まで包み込んでいく。そしてあっという間にアキラはその液体に飲み込まれてしまった。 息ができない! 喉をかきむしりながら悶えるアキラ。液体はアキラの体をすっぽりと包み込んだまま離れようとしない。 ――くそ、意識が……! 液体はアキラの頭を解放して、足の方へと流れていく。激しくむせながら空気を吸い込む。そして液体の方を見ると、みるみる人型へと変わっていったのである。そしてそれは、アキラそのものへと姿を変えたのだった。 「え、ええ!?」 よろよろと立ち上がり、ぐっと顔を近づける。 「俺が、二人……?」 もう一人のアキラがにかっと笑った瞬間、両手を広げて双剣で襲い掛かってきた。 「うわ!? くそ、こいつやっぱり地帝獣だったのか!?」 アキラは剣をひらりひらりとかわしながら間合いを取り、 「オーラマスク!」 と叫ぶ。アキラはオーラの壁を越え、ブルーマスクに変身した。 「ちくしょう、馬鹿にしやがって! くらえ!」 レーザーマグナムを素早く抜き、もう一人のアキラの眉間を撃ち抜く。だが、アキラは首をかしげて不敵な笑みを浮かべていた。口を大きく開け、さっき撃ち込まれた光線をブルーの顔面目掛けて放った。 「ぐはあっ!」 とっさの事でよけきれなかったブルーのマスクに光線が命中し、派手な破裂音を立てて火花を散らした。 地面に倒れ伏せるブルー。頭に食らった衝撃で意識が飛びかけていた。ぼやけていた視界がはっきりしてくると、左手でマスクを触る。 「そ、そんな」 マスクの左目のあたりが粉々に吹き飛んでいたのである。白いグローブには赤い血がついていた。ゆっくりとアキラの方を振り返るブルー。マスクは破壊され、額から血が垂れていた。バイザーの内側にはオーラパワーインジケーターが装備されているが、その表示も現れては消えを繰り返す。 今まで戦ってきた敵も強かったが、マスクを一撃で割るほどの敵に遭遇したことはない。ブルーの背筋に冷たいものが走る。 「マスキートンファー! たぁっ!」 地面を蹴ってアキラに飛びかかるブルー。だがアキラはトンファーを軽々と受け止めて見せ、ブルーの股間を蹴り上げたのである。 「ぐああああっ!」 強烈な痛みが脳を駆け巡り、股間を押さえて飛び回る。 「卑怯な真似を……! 俺はそんなことしないぞ!?」 アキラはぱくぱくと口を動かし印を結んだ。それは『オーラマスク』と叫んでいるように見えた。直後アキラの体が蜃気楼のようなもやに包まれ、ブルーマスクへと変身したのである。 「嘘だろぉ……?」 ブルーが二人。だがよく見れば、胸のエンブレムや装備の位置がまるで鏡にでも映したかのように入れ替わっていた。 「そうか、お前は俺の鏡ってわけか。――よし、かかってこい!」 ブルーがトンファーを構えると、もう一人のブルーもトンファーを構えた。そして二人のトンファーの打ち合いが始まった。 激しくトンファーがぶつかり合い、小さな火花を散らす。その動きはまるで残像でも見ているかのように、どんどんと加速していく。そしてブルーは徐々に攻撃から防御へと転がっていった。 もう一人のブルーはどっしりと腰を落とし、攻めに転じていく。そして生じた隙をついて、もう一人のブルーのトンファーが、本物の鳩尾にめり込んだ。 「がはぁっ!」 ブルーが体をくの字に折り曲げ、足が宙に浮き上がる。もう一人のブルーはそのまま回し蹴りの体勢に入って、ブルーの後頭部に強烈な蹴りを食らわせた。 「うあああ!」 ブルーは顔面から地面に叩きつけられてしまう。もう一人のブルーが素早くトンファーを取り上げると、遠くへ放り投げてしまった。 「いってぇ……な!」 ブルーは両手で体をスピンさせてもう一人のブルーの足を払う。すかさずブルーは飛びかかった。そして拳を固めパンチを繰り出した。だが、倒れているもう一人のブルーは体を硬化させてパンチを弾き返したのだった。 「どこまでも卑怯な真似を……! レーザーマグナム!」 ブルーが銃で光線を放った。だがその光線すらも跳ね返され、逆に自分の胴体を撃ってしまったのである。 「ぐわああああああああ!」 スーツが大爆発を起こし、ブルーの体が大木に打ち付けられた。 「ぐっ…、あぁっ……」 スーツのへそのあたりが黒く焦げて、白煙を噴いていた。もう一人のブルーがゆっくりと歩み寄り、木にもたれかかっているブルーの首を片手でつかみ持ち上げる。 「うっ…、がぁ…! 首が…、息が…!」 もう一人のブルーは首をきつく絞めあげる。そしてもう片方の手でブルーの腹を思いきり殴りつけた。鈍い音と共に拳がブルーの鳩尾にめり込み、 「ぐはぁっ! …げほっ、がはっ!」 ブルーは割れたマスクの中に胃液を吐いた。もう一人のブルーは腹を何度も拳で打ち抜いていく。 「がっはっ! ぐあっ! うああっ!」 殴られるたびにブルーは体を震わせ、短く喘いだ。 ――くそ、このままじゃ負けちまう! 俺の、俺の偽者なんかに! ブルーは両手で、首を絞める腕を握りしめた。だが、どれだけ力を込めてもびくともしない。気道が徐々にふさがり、腹を打たれるたびに体から酸素が抜けていく。 視界が徐々にぼやけて、腕から力が抜けていく。俺、こんな奴に負けるのかよ……! 半壊したマスクから覗くアキラの顔は玉のような汗を浮かべ、浅黒い肌が気まぐれに顔をのぞかせた太陽の光で輝く。 徐々にブルーの体からオーラパワーが滲みだした。だが、それは反撃ののろしではなく、もう一人のブルーがエネルギーを吸い取りだした合図だった。 「く…そ、もう…、力が入らねぇ……」 もう一人のブルーが腕に力を入れ、ブルーの首を完全に絞めてしまうと、ブルーは頭をぶらぶら左右に揺さぶった。腕がだらりと垂れ、がっくりと頭を垂れる。直後変身が解け、ブルーはアキラの姿に戻った。 気を失ったアキラを片腕で高く掲げたもう一人のブルーは、アキラを地面に叩きつけ変身を解いた。そしてアキラの顔を軽く蹴り飛ばすと、ポケットからリンゴを取り出して旨そうに頬張ったのだった。 (了)