射水為朝は今日も眠たい目を擦りながらモニターを見つめていた。右手のマウスが滑るように動き、キーを叩く左手は踊るようにモニターの向こうにいるキャラクターを華麗に操っている。
トーナメントが近づいていて、連日遅くまで練習をしている為朝だったが、さすがに疲れを感じ始めて、椅子に深くもたれかかった。ふう、とため息をついてリクライニングレバーを引き、お気に入りの角度まで倒して軽く目をつむる。そして対戦相手の出方を考えているうちに、静かに寝息を立て始めたのだった。
為朝が目を開けると、その先に広がる光景を見て思わず、
「えっ」
と声を漏らした。いつの間にかキラメイイエローに変身していて、コロセウムのような闘技場に立っていたのだ。観客の姿はなく、正面には自分の倍ほどの背丈と、黒いボディスーツに筋肉を浮かび上がらせる巨漢がニヤニヤと笑いながら立っていた。
「なんなんだ…これ……?」
戸惑うイエローのバイザーに、格闘ゲームでおなじみに体力ゲージが表示される。巨漢が言う。
「ようこそ、俺達とゲームで楽しく遊ぼうぜ」
「なに⁉」
「ルールは簡単。ゲームをクリアしたら現実に帰れる」
なるほど、ね。罠にかけられたと分かったイエローはさっと身構えた。だが、
「お前は武器を一切使えないからな」
「え⁉」
「武器削除チートって便利だよなあ?」
「な、なんだと⁉」
巨漢は笑いながらイエローににじり寄る。
「ほぅら、殴って来いよ!」
「言われなくても!」
イエローが地面を蹴って巨漢に飛びかかり、胸にパンチを食らわせた。だが、バイザーの体力ゲージは一ミリも減ることはなく、巨漢は涼しい顔でイエローを見つめていた。
「次はこっちだ!」
巨漢のパンチがイエローの鳩尾に突き刺さり、
「げぼおあッ⁉」
体をくの字に折ったイエローは両手で腹を抱えてうずくまってしまった。体力ゲージが大きく削れている。
「はっ…、はううっ⁉」
まともに息も出来ず、こみ上げる吐き気を堪え続け、なんとか飲み下して立ち上がった。
「体力無限、ゴッドパワーチートって便利だよなあ?」
「い、一体なにが……」
「ほらほら、考えてる暇なんてないぞお?」
巨漢は舌なめずりしてイエローに襲いかかる。
「うあ、待て―」
「問答無用!」
巨漢の腕が素早くイエローの鳩尾を突き上げ、
「ぐはあッ!」
イエローが吹っ飛ばされて地面を転がる。巨漢はその体躯から想像もつかないスピードで素早く動き、よろめき立ち上がったイエローの股間を蹴り上げた。
「ひぎゃッ⁉」
空中を回転しながら吹っ飛んだイエローが地面に落ちるやいなや、
「ぎああああああッ!」
両手で股間を押さえてもんどり打ち、
「ひぎいいいぃぃッ!」
グローブを小水が伝い落ちた。
「おいおい、このままじゃ一ラウンドすぐに終わっちまうぞぉ?」
イエローの体力ゲージはあと残りわずか。そして赤く点滅を繰り返している。
「あうっ、うっこれっ、ま、まさかっ……⁉」
「ゼロになったら死ぬんだぜ?」
「うあ、そんなっ⁉」
イエローがよろめき立ち上がり、じりじりと後ずさる。
「どうした、腰が引けちまってるなあ? そこにとどめが欲しいんだなあ?」
「あ、ちが―」
「食らえ!」
巨漢の蹴りがイエローの股間を押し潰した。
「あ゙があ゙あ゙ッ!」
イエローが垂直に打ち上げられ、闘技場に鐘が鳴り響く。大の字に倒れ込んだイエローの股間にじゅわりと、精液が浮き出し、会場のスピーカーが「イエロー絶命敗北!」と叫び告げた。小刻みに震えていたイエローの体がピクンと跳ねて動きを止めると、巨漢へ向けて誰もいない観客席から万雷の拍手が沸き起こった。
何が起きたのかも分からずにイエローが死に、次の瞬間、
「うあ⁉」
目を覚ました。また同じ場所、同じ位置に立ち、巨漢がこちらを見つめている。
「第二ラウンドだぜえ」
「チーターなんかに負けてたまるか!」
殴りかかろうとした瞬間、イエローの体が凍り付いたように固まってしまい、
「くそ、なんなんだよぉ!」
巨漢が歩み寄ってイエローの首を掴み、一気に闘技場の壁際へと追い込むと、
「全身の骨を砕いてやるぜ!」
「なに―」
巨漢がイエローの左胸を殴りつけた。その一撃で体力ゲージの半分が吹き飛び、あばらが砕け散る。
「ぐあッ⁉ …ぶはッ!」
マスクの隙間から鮮血が吹き出した。巨漢の両拳が矢のようにイエローの腹に襲いかかり、
「ぐはあああ゙あ゙あ゙ッ!」
最後の一撃が腹を撃ち抜くと、
「げふあ゙あ゙ッ!」
ドサリとうつ伏せに倒れ痙攣し始めた。小水の染みが地面に広がり始めたところで巨漢はイエローを蹴り起こし、マスクを掴んで無理やり体を引っ張ると、猛烈な勢いで顔面にパンチを何発も叩き込んだ。
「ぐべッ! ぐはッ! ぐああッ!」
イエローのマスクに亀裂が走る。
「逝けぇ!」
最後の一撃がマスクを砕き、
「ぶへッ⁉」
為朝の顔から血が噴き出した。パンチで撃ち抜かれた為朝はぐるんと白目を剥き膝から崩れ落ちて事切れたのだった。
数秒経ってイエローの体が小刻みに震え、砕けたマスクが元通り為朝の頭をすっぽり覆う。
「はうっ⁉」
また先ほどと同じように巨漢と向かい合わせで立っていた。ただ違うのは巨漢の手に鞭が握られている。
「最終ラウンドだぜえ」
そう言うと鞭をしならせ、気味の悪い笑みをイエローに向ける。ファイティングポーズを取るイエローが、
「うおおおおッ!」
雄叫びと共に巨漢に向かって突っ込んでいった。空を切って向かってくる鞭をひらりひらりとかわしながら懐へ潜り込んだイエローは、鋭いパンチの連打を浴びせる。だが、
「き、効いてない……⁉」
敵の体力ゲージは微動だにせず、薄ら笑いを浮かべていた。
「もう忘れちまったのか? バカな奴だ」
敵はイエローの股間を蹴り上げた。
「ぎゃふッ!」
体が宙に浮いた瞬間、しなる鞭がイエローを打つ。バリッと電撃が走り、
「ぐぎゃッ!」
どさりと地面に落ちた。左手でズキズキ痛む股間を押さえて立ち上がったところへまた鞭を振られ、
「ぐあッ! がはッ! うああッ! ぐあああッ!」
鞭が体に命中する度、イエローは短く呻きスーツから火花が散る。
悶えるイエローに鞭を巻き付けて電撃を浴びせながら思い切り腕を引き、そのままイエローの体を振り回して何度も地面に叩きつける。
「ぐあッ! があッ! うああッ!」
そして敵の体から放たれた大電流が鞭を伝ってイエローの体を包み込み、
「ぐわあああ゙あ゙あ゙ッ!」
全身から火柱を噴きだして叫んだイエローはついにがっくりと膝を突いた。鞭がほどかれるやいなや床に倒れ込み、苦しそうに呻きながらゆっくりと顔を上げる。
「あうっ…、ひ、卑怯な……ことを……」
「勝つためだからな? なんだっていいんだよ」
敵はイエローのマスクめがけて二度、三度と鞭を振るい、粉々に砕くと血まみれの顔を見て舌なめずりをして、動けないイエローの背中にどっかりと腰を下ろす。
「ぐああっ……!」
悲鳴を上げるイエローの首に敵は鞭を巻き付けると、ぐいっと引っ張った。
「うげぇっ⁉」
鞭がイエローの首に食い込み、苦しそうに両手で引き剥がそうとつかみ力一杯引っ張るイエローだが、それを上回る力で敵が絞めあげて、顔が徐々に赤らんでくる。
「がっ…はあッ!」
「もっと苦しめぇ……!」
「ぐああっ……!」
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